世にはびこる「株式投資で簡単に儲けるテクニック」の嘘

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2016050101

1億円稼げる素晴らしい本

 
試しに、Amazonの商品検索で「株式投資 1億円」と検索してみてほしい。色々な本がヒットするはずだ。

「株式投資で1億円儲けるテクニック」

「がんばらずに1億円儲ける投資法」

「100万円を7年間で1億円にするテクニック」

「ほったらかしで1億円を稼ぐ裏技」

「馬鹿でも1億円稼ぐ株式投資」

などなど(ニュアンスを伝えることが目的なので、タイトルはやや変えている)。

このような書籍を読む価値はほぼゼロなのだが、試しに読んでみるとさも本当に1億円稼げるかのように書いている。株式投資を真剣に学んだことがある人ならば、このような主張がいかに荒唐無稽なものであるかわかると思うが、これから株式投資を勉強しようと思っている人や負けっぱなしで藁にも縋りたい人ならば読みたくなるのかもしれない。

もし、本稿を読んでいる方がこれから株式投資を勉強しようと思っているならば、このような本は読むべきではない。

「三つ子の魂百まで」で、初期の段階で訳の分からない理論を学ぶと後々厄介なことになる。堅実な投資法を学んでも、ルール破りの方法を最初に学んでいると投資理論の実践が困難になるからだ。

実際に、私も投資理論を真剣に学んでいなかったころに、誰でも年利50%を上げられるとする短期売買の書籍をゴーストライターし、それができると本当に信じ込んでいた。しかし、実践してみるとできるはずもなかった。

もし、ベンジャミン・グレアムがこのような書籍タイトルを見れば何と言うだろうか。恐らく、こんなことを言うのではないだろうか。

「頑張らずに1億円儲けるなど不可能だ。株式投資はそれほど甘いものではない」

「ほったらかしで1億円儲けるのは不可能だ。半年に一回はポートフォリオの見直しをするべきだ」

「自ら馬鹿であると認めるものに1億円稼げるはずはない。投資家は賢明でなければならない」

「100万円を7年間で1億円稼ぐためには、年に約93%の実績を上げながら複利運用しなければならない。そんなことができるはずはない」

私はこの本の著者たちについて詳しく知らないし、知る気もないが、もしかしたら本当に1億円を稼いだ実績があるのかもしれない。ある著者は、本当に7年間で100万円を1億円に増やしたのかもしれない。しかし、やはり信じがたいことである。もし、100万円を7年間で1億円に増やす投資理論が本当にあるならば、この書籍は大喝采を受けてバカ売れするはずだが、Amazon売れ筋ランキングでは2万位以下である。

年平均で93%を7年間連続で増やし続ける(そして、7年では終わらない)理論を確立しているならば、ウォーレン・バフェット以上の大投資家として名を馳せるはずだが、私はこの著者を知らない。結局は、株式投資に安易な妄想を抱いている人を食い物にする書籍でしかない可能性が高い。

しかし、これらの著書において「運が良ければ」という意味のことが書かれているならば、これらの書籍は嘘ではない。頑張らずに、ほったらかしで、馬鹿でも1億円儲けることができたり、100万円を7年間で1億円に増やすことは、非常に幸運であれば不可能とは限らない。

例えば、ある株が1株100円で売られていたとする。頑張らない投資家がほとんど情報収集もせず、情報がなくてもその馬鹿さゆえにその株に1000万円を投資したとする。そして頑張らずにほったらかしにしておいたところ、その株は7年間で1株1000円にまで上昇して1億円を儲けることができた。そのような話もあり得ない話ではない。

しかし、実際にはほぼあり得ないことであり、やはり1億円のお金を手にする投資家というのは、頑張り屋で投資理論の研究や情報収集に余念がなく、センスがあって馬鹿ではなく、身に着けた投資理論と膨大な情報とセンスから株価が今後7年間で10倍に上昇するに違いないと確信を持って投資する、ごく一部の投資家に限られる。
 
くどい言い方をしたが、以上のような理由から、世にあふれる安易なテクニックは信用するに値しないと言ってよい。初心者を食い物にしているか、あるいはタイトルが示す投資態度によって本当に1億円を稼いだものの、運によってそれがもたらされたのではなく、自分の実力によって稼ぎ出したと勘違いしているだけのことである。

コインを投げる人の話

このことに関して、ベンジャミン・グレアムの弟子であるウォーレン・バフェットは、面白いたとえ話をしている。

アメリカで、「全国民コイン投げ大会」が行われることになった。

この大会では、2億2500万人の国民が毎朝コインを投げる。投げたコインの裏・表に1ドルを賭け、予想が当たった人は外れた人から1ドルもらい、当たって得たお金は全て翌日の賭け金にし、負けるまで投げ続けるというルールである。

大会が始まって10日目の朝、その日のコイン投げが終わると勝ち残った22万人は1000ドルあまりを手にしていた。
勝ち残った人々は半ば天狗状態である。なにしろ、毎朝30秒のコイン投げを10日間継続しただけで1000ドルを手にしたのだから。自分は素晴らしい洞察力や、投げる際のテクニックを持っており、それによって1000ドル稼ぎ出したと勘違いし始めている。次の10日間も勝ち続け、20日目の朝には100万ドル以上を手にしているはずだと思い込んでいる。

20日目の朝が終わると、215人が勝ち残った。その215人は100万ドル以上を稼いでいた。215人の中には『20日間、30秒のコイン投げで1ドルを100万ドルに増やす方法』といった書籍を書く人も出てきたし、そのようなセミナーを開講する人も出てきた。

「1ドルを100万ドルにするコイン投げセミナー」には、自分も20日間で100万ドルを稼ぎたいと思う多くの人が参加し、疑い深い人が「そんなうまい話はあるはずがない」と食って掛かると、彼らは「それなら、私たち215人の存在をどう説明するのですか?私たちは実際に100万ドルを稼いでいます。それが証拠です」とはねつける。

しかし、ここでセミナーに参加した一人の賢者がこういった。

「2億5000万匹のオランウータンに同じことをやらせても、結果は同じですよ。20回連続で予想をあてた、215匹の自己中心的なオランウータンが残るだけです」

投資理論の有意性

以上のように、緻密な投資理論があるわけでもなく、抜群のセンスがあるわけでもない投資家の投資行動は単に投機に過ぎず、そのような投機家が言う「簡単に1億円稼ぐ方法」などは自己中心的なオランウータンの鳴き声でしかないのだ。

「100万円を7年間で1億円にする方法」の読者は、Amazonの売れ筋ランキングから見てもそれほど多いとは思えない。日本の人口1億3000万人のうち何人が株式投資に安易な理想を抱いて、この書籍を読み、さらに実践するだろうか。読んで実践した人のうち、極めて運の強い人が1人くらい「100万円を7年間で1億円」を実現するかもしれないが、その可能性は限りなくゼロに近い。

これが、冒頭で「このような書籍を読む価値はほぼゼロ」とした理由である。なぜ「ほぼゼロ(全くのゼロではない)」なのかといえば、安易なテクニックがどのようなものかを見物するにはちょうど良い書籍ともいえるからである。

このことから、世の中には蔓延するテクニックの中には安易なものがいかに多いかがよくわかる。だからこそ、歴史と実績がある投資理論の重要性も分かる。

もし、前述の「全国民コイン投げ大会」において、勝ち残った215人の50人がある地域に偏っていたとすればどうだろう。さらに、その50人のうち49人は、非常に優れた1人のリーダーの賭け方をそっくり真似して20連勝していたとしたら?
そうなれば、この49人の勝ち残りは単なる偶然ではなく、1人のリーダーの勘によってもたらされたものであると言える。コイン投げというものの性質上、そのリーダーの運が極めてよかったのだということもできるかもしれないが、この問題を株式投資に置き換えると問題はたちまち変わってくる。株式投資での勝ち残りは、勘だけではなく、優れた知性によってもたらされることの方が圧倒的に多いものだからである。

世の中には様々な投資理論があり、成功する人も失敗する人もいる中で、ある投資理論を築いた人と、その人をリーダーとして同じ投資理論を着実に実践した人が例外なく稼いでいたならば、その投資理論が非常に優れたものであることは疑いがない。

そのリーダーの一人として挙げられるのが、ベンジャミン・グレアムなのである。

バフェットがグレアムの投資会社であるグレアム・ニューマン社で働いていたころ、社員は4人しかいなかった。この4人は数千人や数万人の中から優れた人物を選んだわけではない。グレアムの投資理論に傾倒して社員になった4人であった。

彼らは1954年から、グレアム・ニューマン社が解散する1957年まで働き、グレアムの投資理論をわが物とした。
その4人とは、ウォルター・シュロス、トム・ナップ、ウォーレン・バフェット、ビル・ルイエンである。ウォーレン・バフェットとその同僚という表現もできる。彼らの実績を以下に記す。

ウォルター・シュロス

ウォルター・シュロスはニューヨーク金融協会の夜間コースでグレアムに学び、グレアム・ニューマン社に入社した。グレアムの手法の通り、企業が公開する情報の中から必要な数字を探し出し、常に100銘柄以上の割安株に分散投資した。彼のWJSパートナーシップは、1956~1984年の28年3ヶ月で23104.7%の複利成長を遂げた。これは年間複利成長率に換算すると21.3%である。この28年3ヶ月におけるS&Pの複利成長率は887.2%、年間複利成長率は8.4%であった。

トム・ナップ

トム・ナップはコロンビア大学でグレアムに学んだ。彼は同じくグレアムの教え子であるエド・アンダーソンと共にトゥイーディー・ブラウン・パートナーズを設立し、やはり割安株に幅広く分散投資した。その結果、15年9ヶ月で1661.2%の複利成長を遂げた。これは年間複利成長率に換算すると20.0%である。この15年9ヶ月におけるS&Pの複利成長率は238.5%であり、年間複利成長率は7.0%であった。

ウォーレン・バフェット

いまさら説明する必要もない大投資家である。バフェットはグレアム・ニューマン社の解散後にバークシャー・ハサウェイの前身であるバフェット・パートナーシップを設立した。このころのバフェットは、まだ「葉巻の吸いさし」への投資を主体としている。バフェット・パートナーシップは、1957~1969年の13年間で2794.9%の複利成長を遂げた。これは年間複利成長率に換算すると29.5%である。この13年間におけるS&Pの複利成長率は202.3%であり、年間複利成長率は10.1%であった。

ビル・ルイエン

ビル・ルイエンはコロンビア大学でグレアムの講座を受け、後にセコイア・ファンドを立ちあげた。セコイア・ファンドは1970~1984年の14年3ヶ月で775.3%の複利成長を遂げた。年間複利成長率では17.2%である。この期間におけるS&Pの複利成長率は270.0%であり、年間複利成長率は10.0%であった。

このほか、グレアムから直接学んでいないものの、グレアムの投資理論を学んで大きな成功を残した投資家は多い。チャーリー・マンガーなどが良い例である。

以上のことから、歴史と実績ある投資理論を学び実践することがいかに重要であるか、そして歴史も実績もないテクニックがいかに心もとないものであるかがよくわかると思う。それを実践すれば成功する確率が極めて高い投資理論を実践するか、それを実践しても成功する確率が極めて低いオランウータン・テクニックを実践するか。前者は学びと実践に苦痛が伴い、後者はあまり考えずにコインを投げるだけの簡単な方法である。どちらを選ぶかは自分次第だ。


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