インフレ時にはポートフォリオをどう組むか

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日本経済では長らくデフレが続いていたが、最近になってようやくインフレに転換した。2013年は0.36%、2014年は2.75%、2015年は0.73%と微幅ではあるが、株式投資に取り組むにあたって、インフレの影響を完全に無視するのは危険である。ここでは、インフレのリスクを考え、それをヘッジするポートフォリオの組み方を考えていく。

まず、投資とインフレの関係性を考える上で押さえておきたいのは、貨幣錯覚の問題である。実際、貨幣錯覚によってインフレの重要性を見逃してしまう投資家が少なくない。

貨幣錯覚とは、経済学ではなく心理学の用語である。どういうことか簡単に説明しよう。

例えば、インフレ率が3%上がり給料も1%上がった場合と、インフレ率が0%で給料が2%下がった場合を考えてみてほしい。どちらの方が良い気分だろうか。多くの人は、前者であると答えるだろう。しかし、実質的にはどちらも変わらない。これは、実質的な違いはどうあれ、給料そのものの増減が心理に与える影響は、経済におけるインフレ率の増減よりもダイレクトなのである。

このことを踏まえて、投資とインフレの関係を見てみると、一つのことが浮き彫りになる。一般的に「インフレになると株価が上がる」と言われるが、実際には株式投資によってより多くの収益が得られたとしても、実際にはインフレによる物価上昇に食いつぶされていることが多い。しかし、手元に転がり込んでくる収益が増えただけに、インフレの影響が見逃されがちなのである。
したがって、まずは貨幣錯覚から目を覚ましたい。貨幣錯覚を持ったままでいると、実際にはそれほど儲かってはいないにもかかわらず、インフレだから株をどんどん買うべきだという誤解がうまれ、リスクをどんどん増大させることになる。

もっとも、ギャンブラーではなくあくまでも投資家でありたいならば、一般的に過小評価されている要素であろうとも、それに対する警戒心は常に持っておかなければならない。裁定取引でもないかぎりリスクがなくなることはないのだから、常に対策をしていなければならない。

インフレは株価を押し上げるか?

次に考えたいことは、上述の通り一般的に「インフレになると株価が上がる」とされていることである。ポートフォリオを組む際にも、インフレの時は債権による利回りが減るため、株式に積極的に投資したほうが良いという意見もある。
“一般的にそうされているならばそうしよう”というのは愚鈍な投資家のスタンスである。賢明な投資家は、世間の意見に流されることなく、自分の判断で投資を行う。世間の熱狂に飲まれて資産を失うリスクは犯さないし、同様に一般的な見解に流されてリスクを犯すことはない。投資の結果に伴う責任は自分で取らなければならないのが投資家の常であるが、自分が下した判断であってこそ責任も取れれば反省もあるのだ。

さて、では投資判断をするための参考をどこに求めるかということであるが、これは過去の経験に頼るのがいい。将来の方針を立てる際には、過去の経験による知識の基づく必要がある。インフレになると株価が上がるという証拠を株式市場の歴史のなかに求める見つけることができれば、インフレ時に株をたくさん買う根拠になる。
まず、日本における1980~2015年におけるインフレ率を見てみると、過去にはたくさんのインフレがあったことがわかる。そして、そのインフレ率と日経平均株価を比べてみると、必ずしもインフレだからといって株価が上昇するわけではないことが分かる。以下の表を参考にしてほしい。

1980~2015年のインフレ率の推移

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引用元:http://ecodb.net/country/JP/imf_inflation.html

1980~2015年の日経平均株価の推移

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引用元:http://ecodb.net/stock/nikkei.html

何点か注目してみよう。

1980年のインフレ率は7.81%、1981年のインフレ率は4.92%と非常に高いが、株価の上昇はわずかである。それに対し、1985~1989年にかけての株価は、インフレ率が微幅であるにもかかわらず大きな上昇を示している。

1998年でインフレは終わり、1999~2005年まではデフレであった。しかし、デフレのさなかにも株価が上昇しているタイミングはある(特に1998~1999年、2004~2005年)。同様の例は、2008~2009年や2011~2012年などにも見られる。

以上のことから一つの結論を導き出すことができる。

それは、インフレ率と株価の間には密接な関係がないという事である。

インフレ率が大きいからといって株価が大幅に上昇するわけでもなければ、インフレならば株価が上がりデフレならば株価が下がるというわけでもない。あくまでもそのような傾向があるというだけのことであり、それを盲信して良いというわけではないのである。

経済理論的にはインフレなら株価が上がる傾向があるものの、そうならないことも往々にしてよくある。それはなぜだろうか。

インフレが企業に与える影響

これを解明するためには、インフレと企業の関係、つまりインフレが企業収益にどのような影響を与えるかを知ることが役立つ。企業収益は株価に直結する要素だ。簡単に言うならば、企業が資本から収益を上げていくにあたって、その資本利益率は経済全般の様々な影響を受けるが、インフレ率上昇による卸売物価や消費者物価に合わせて資本利益率も上がるという傾向が見られないことに答えがある。
これまでの経済循環において、インフレになると物価が上昇し、それによって企業収益は増加すると考えられてきた。確かに、多少のインフレが与える影響もないわけではない。特に、アメリカの1950~1970年にかけて経済発展と物価上昇が同時に起こったことから、この考えが根強くなった。しかし、インフレの際に企業収益がいつも増加するかというとそうではない。実際には、収益率を維持することにさえ役立たないことが多かった。

そのことを示す良い表がある。

1950~1969年の企業の負債、利益、資本収益率

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アメリカではこの表における時期、インフレが続いている。インフレは企業に利益を与えただろうか。むしろ逆効果ではなかったか。
中でも目立つのは、この期間における負債額の上昇率である。1950~1969年にかけて、所得税引前の利益は約2倍になっているのに対し、負債は約5倍になっている。当然負債には利息が発生するため、負債が増えるとそれだけ利益を圧迫することになる。事実、1950年には金利支払い後の所得税引前利益は負債の約30%であったのに対し、1969年では約13.1%でしかない。つまり、企業は新たな負債を抱えることによって利益を生んでいるのである。

インフレ時に投資対象になりがちなもの

では、上記のことを踏まえ、インフレ時にはどのようにポートフォリオを組むべきなのであろうか。

まず、ここまで書いてきたとおり、インフレだからといって株価が必ず上昇し、収益をもたらしてくれる根拠はどこにもない。
もちろん、状況を分析して収益を生む可能性が高いと判断したならば投資すべきであるが、すべてを株式に投資してしまえば大きなリスクを背負うことになる。株を購入するという事は、株を保有している間ずっとリスクを背負っているという事を忘れるべきではない。値上がりすると信じられていた企業の株価が大暴落して倒産したケースや、何十年もかけて損失を回復させたケースは枚挙にいとまがない。

もしインフレだからと言ってポートフォリオを株だけにしてしまうと、値上がりによって心躍ることもあれば、値下がりによって憂鬱になることもある。とても冷静でいることは難しく、冷静さを欠いた投資の危険性は皆さんの知っている通りである。また、ポートフォリオ構築の根拠がインフレにあれば、上昇相場において下落の可能性を見るのではなく、インフレなのだから当然であると正当化しがちであり、これも危険である。

インフレの防衛手段としてを購入する方法はどうだろうか。昔から、通貨危機の際に購入された金が最たるものである。金は2000年には1gあたり1000円程度であったが、2013年には1gあたり5000円に迫った。実に500%の上昇であり非常に素晴らしい投資対象にも思えるかもしれない。しかし、これはここ十数年での推移であり、その他の期間に目を移せば違う面が見えてくる。

例えば、1989年に1gあたり1500円買った人は2006年まで17年間保有し続けてもわずかに500円程度しか上昇していないことになる。その間、債券や株のように配当収益を得られないほか、保管のための支出もある。そして、インフレに伴う危険を避けるために金を保有した間も、常に株式市場は周り続け、適切な投資をした人には利益を生み出し続けたのだ。金は、上昇した時はいいが、横這いや値下がり、わずかな上昇にとどまった時には目も当てられない。したがって、金はあまり投資対象として優れたものとは言えない。

このほか、名画宝石希少な硬貨などといった相場価格が年々上がり続ける「物」に投資するという人もいる。

映画『ウォール街』の主人公、ゴードン・ゲッコーも美術品を収集している。しかし、これも一般的な投資家にはお勧めできない。このような「物」の相場価格は多分に人為的なものであり、不安定な要素をはらんでいる。このような「物」に対する造詣が深く、値上がりする可能性が極めて高いものを選んで投資できる人ならば投資手段としてあり得るが、ほとんどの投資家には不可能である。

以上のことは、投資対象を広げすぎることからも否定すべき手法である。株式投資を成功させるだけでも苦労するのだ。この意味から、不動産投資もお勧めできない。よく不動産への長期投資がインフレ対策に効果的と言われるが、不動産価値にも様々な不確定要素があり、価値ある不動産を見つけるだけでも大変なことだ。

まとめ:インフレ時のポートフォリオをどうするか

結局、インフレ時にはポートフォリオをどう組めばよいのだろうか。これはなんら難しいことではない。株式だけで組むことを避け、債券を組み込んでいくのである(もちろん、債券だけで組むのもいけない)。最近では、インフレに対するリスクヘッジとなる様々な金融商品が出てきた。まず挙げられるのは不動産投資信託である。これは、投資家から集めた資金で不動産投資を行い、売買益や賃貸収入を分配するものである。つまり、不動産の鑑定などはプロに任せつつ不動産に投資できる。
不動産投資における不確定要素を極力避けつつ不動産投資ができるのである(とはいえ、自分のお金の運用を任せる以上は十分に信頼できる投資先を探すことが前提となる)。

次に覚えておきたいのがインフレ連動債である。インフレ連動債はインフレ率が高ければ高いほど利回りが良くなる債権である。
不動産投資信託やインフレ連動債によってインフレのリスクを完全に防げるかといえば、もちろん完全ではない。しかし、

インフレになれば不動産投資信託やインフレ連動債の利回りは上昇し、株価も上昇する傾向があり、債券の利回りは下がる

ということを期待することができる。

インフレの際に債権の利回りが低価したり、株価が下落することもあるかもしれないが、インフレに強い金融商品をポートフォリオに組んでおくことによって全体での利回りや損失を防ぎ、購買力の低下を抑えることができるのである。
以上のように、インフレにおいてもデフレにおいても、等しく単一の投資物に頼ることは危険であることが分かる。どのような状況下でもバランスのよい、リスクの低いポートフォリオを組むためにも、不断の勉強が求められるのである。


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